破綻したイタリア村の跡地と名古屋港全体の将来像を広く市民と共に構想するための「名古屋港ガーデンふ頭を考える学生提案」を、全国の大学の建築および土木系の研究室に公募しましたところ、地元名古屋をはじめ、関東、近畿、さらに九州を含む全17大学、25チームの熱意のこもった提案が寄せられました。あらためて関心を寄せていただいたすべての皆さんに感謝いたします。
さる10月2日大同大学において、これらの参加チームと同行の先生方、ならびに全実行委員が一堂に会し、提案の公開講評会が催されました。提案の内容は実に幅広く多様なもので、当日は300人収容の会場が満杯になるほどの熱気とともに、終日熱心な発表とそれらに対する講評が行われ、最優秀提案として愛知工業大学中井研究室の作品が選ばれました。詳しい各案の内容および講評を掲載する記録集を後ほど発刊しますが、ここでは代表して当日の東京大学内藤廣教授のコメントを掲載します。
実行委員会を代表して、学生と指導する建築家が共同して制作したこれらの真摯な提案が、今後名古屋の多くの市民が行政とともに、名古屋港のあるべき姿を模索するための、よき出発点となることを心から希望しています。
実行委員長 建築家・早稲田大学教授 古谷誠章
東京大学 内藤廣教授
- 東京大学 内藤廣教授案はなるほどと思うものも、学生の課題の域を出ないと思うものもありました。
- 今回の取組みは、単なる課題ではないので、学生諸君の心の持ち方で気になるところがあったので、それを指摘したいと思います。
- 案をつくる上で、みなさんの心の中で「どうせ」という気持ちがなかったかどうか思い浮かべてほしいのです。
- ひょっとしたら、「これはどうせ実現しないのだから」とか、「どうせ」という気持ちがどこかになかったか。「どうせ」と思った瞬間にプロジェクトはどこかに飛んでいってしまう。
- 市民や行政に対して切実な思いで訴える内容をデザインしよう、と考えた人がどれくらいいたかということです。
- 少しでもそういう風に考えたとすれば、例えば自然に対する非常にオプティミスティックすぎる提案も、そうはならないだろうし、これだけのエリアをなんとかしようと思ったら、交通計画も考えてLRTとか水上交通というのをもっとまじめに提案してもいいかもしれないと思いました。
- 名古屋という街の中でどう位置づけられるかということを真剣に提案すべきです。
- その意味で、東工大の案や明治大の案などは、名古屋という視点から掘り起こしている姿勢も少しは見えるので、なるほどと思わせるところがあります。
- 名古屋くらいの規模の都市は、これから東南アジアを中心とした国際的な都市間競争に否応なく巻き込まれます。名古屋という街をどうしたいんだということがないと、どんな提案をしても計画は宙に浮いてしまうのではないか。
- そうすると、なんらかの大義や大前提を掲げないと、あらゆるデザイン提案はリアリティを失って単なるバリエーションや思いつきになってしまう。だから、計画の前提になる何か大義がほしい。
- みなさんの提案を見ると、ほとんどがアメニティの提案に寄りすぎている。提案された空間は、たしかにどれもこんな場所があったらいいなと思わせる気持ちのいい空間です。
- でも都市というものは、そんな単純なものではない。もっといろんなものを含んでいる。それを知ってほしい。アメニティの提案というのは、確かに市民には受けるでしょう。たぶん市民がこれを見せられたら、こんな場所だったらいいよねとか思いますよ。
- でも、それだけじゃダメです。都市というのはファンクションでもあるわけだから、みなさんの提案はそちら側も見ていないといけないと思います。
- ほとんどの提案は、アメニティあるいは自己表現に偏っていた気がします。それはそれで面白いかもしれないけれど、ぜひともそれを越えてほしいと思いました。
- 模型のすごいものがありました。愛知工業大学の模型、あの模型、理屈なしですごいと思うんです。これをバカにしてはいけない。
- あそこまでこだわると、単なる模型の精度が市民の気持ちをつかむ、行政の気持ちをつかむ、ということだってあり得る。本当の意味で人の心をつかむのは、一見かっこいい論理性や明解さではなくて、ああいうことなのではないか。
- つまり、ここまで作るのだったら、こいつらは本気かもしれない、と周りの人が思ってくれる可能性です。これはひとつのやり方だと思いました。
- いろんな可能性を見せてもらいましたが、なんにせよ若者が都市に対して発言するのは良いことです。今回の取組みは、とにかく素晴らしい試みであると感じました。